絶望的な激痛が奇跡的に治った話(6)

(5)の続きです。

前回の日記で、「次回は、生まれて初めて新興宗教の施設に連れていかれたお話です。」という予告を書きましたが、正確には生まれて初めてではなくて2回目でした。これに気づいたのは去年、メディアで旧統一教会がすごく話題になりましたよね。ワイドショーやニュースは毎日のように統一教会の話題でもちきりでした。そこで、洗脳するための手法として、まずビデオセンターという場所に連れていくという事例がテレビで紹介されていたのを見て、あ、そういえば私、若い頃ビデオセンターに連れていかれたことある!と思い出したのです。というわけで、昔連れていかれたあの場所が統一教会の施設だったんだ!と認識したのは去年です。その体験もなかなか興味深かったので、別の機会に書きたいと思います。

さて、話を戻します。私が『か●●公いち治療院』の気功教室で知り合ったA子さんに連れていかれたのは、旧統一教会ではなく、立川に本部があるS如苑という宗教団体の施設です。

気功教室の帰り道、他の生徒さんたちとで駅まで一緒に歩いていた時です。A子さんに、もしかしたら痛みが治るかもしれないものがあるので紹介したい、ということで一緒にランチをしながら話しましょうと誘われたところまで前回は書きました。
私はせっかくだし、もう気功教室には二度と来ないし、お腹もすいていたし、ランチいいね!と思いました。
そのタイミングで前を歩いていた数人の方が、「ランチ一緒にどうですか?」と声をかけてくれました。
私もみんなで一緒に食べる気満々でした。その時にA子さんの隣に座ってお話を聞けばいいよね…と思ったのですが、A子さんは、「いえ、私たち二人は予定があるので失礼します」とかなり食い気味に断ってしまったのです。
はぁ?なんで?と私は内心思いましたが、二人きりで話したいのか…と思い直しました。もう二度と会えなくなるのは少し残念でしたが、他の生徒さんたちとはそこでお別れしました。

宗教の勧誘をしてくる人って、どうしてターゲットを一人きりにしたいのでしょうね。本当に自分の信仰に自信があるなら、みんなの前で堂々とプレゼンすればいいと思うんですが。。。やはり無意識には罪悪感や羞恥心があるのでしょうか。
その後、私はA子さんと二人でお蕎麦屋さんに行きました。他の皆さんが誘ってくれたエスニック料理の方がよかったなぁ。。と、なぜか今でも鮮明に覚えています。

二人で蕎麦を食べながら、『か●●公いち治療院』の気功教室の怪しい点やお金を無駄に使ってしまったという悔しい気持ちについて話すと、A子さんは親身になって聞いてくれたので、ちょっと楽しくなってすっきりしました。
その後A子さんは、入信しているS如苑という宗教団体について説明を始めました。S如苑については初耳で、この時まで私は全く知りませんでしたが、かなり大規模な仏教系の団体みたいですね。
続けてA子さんは、「今日の午後、立川で法要があるから、それに参加してみれば?もしかしたら痛みが軽くなるかもしれないよ?もし行くんだったら私も一緒に行くよ?」と本題を切り出しました。
私は「え?今日?法要って?それに行くと痛みが軽くなるの?」
すると、A子さんは法要についてまた丁寧に説明してくれたような記憶もありますが、その内容は覚えていません。私の頭の中で思考がぐるぐると回りはじめました。
本当にこの激痛が軽くなるんだったら、怪しい宗教でも何でもいいよね?本気で信じている信者さんたちがたくさんが集まったら、その祈りのエネルギーのようなものは強くなりそうだし、それが上手く作用すれば痛みは軽くなるのかも。。で、ここでのリスクとデメリットは何だろう?お金としつこく勧誘されることか。。。
「それってお金がかかるの?」と私。
「私の紹介なら一切お金はかからないよ?」とA子さん。
「参加したら入会しなきゃいけないの?」と、さらにもう一つのリスクを確認すると、
「全然それはないよ。私も何人も友達連れて行ったことあるけど、その後はまったく勧誘とかしないの。本人が入会したくなったらすればいいんだし」という安心できるお答えでした。
それが本当ならリスクはないってことだよね?しかし、わざわざ一緒に行ってくれるって優しいよね。優しすぎだよね。。。

普段の健康体なら絶対断っていた話でしたが、当時の私はこの激痛を何とかしたいという願望のみに支配された状態、できることはとにかく何でも試してみよう!と心に誓ったばかりだったので、それほど迷わずに参加することにしました。こんな親身にされたら断るのも気が引けるし、行ってみて本当にこの激痛が消えたりしたら入信してもいいとさえ思いました。

そんなわけで横浜から立川までの長旅が始まりました。A子さんと私は、電車の中でたくさん話しました。ガチで新興宗教を信じている人とこんなに長時間話すのは初めてだったので、なかなか興味深かったです。この時の会話はかなりはっきり覚えています。
まずは入信している芸能人の話。
「歌手の〇〇〇とか、俳優の××××とかも入ってるよ。この前も立川の施設で△△△が歩いてるの見たし。。」
得意げに有名人の名前をあげるA子さん。
芸能人が宗教に縋ってしまうのはよくあることだと思うので、
「ふうん」としか答えようがありません。
有名人が入っている=信用できるとはならないですよね。この会話はそれ以上広がりませんでした。

次にA子さんが語ったのは1985年に起きた日本航空123便墜落事故の話。これは印象深かったです。
「昔あった日空機墜落事故って知ってる?その時の飛行機を操縦するはずだったパイロットがS如苑の信者だったんだけど、直前で急に予定が変更になって他のパイロットに交代になったの。で、その信者のパイロットは助かったんだよね。つまり、守られてるってこと。。。」
ん?この話、なんか違和感。
「ってことは、その人が助かった代わりに、他の人が犠牲になったってことだよね?」
私がその違和感を言葉にすると、A子さんは、いい質問です!とでも言いたげなニコニコ顔で、
「つまり、そのパイロットには大事なお役目があるってこと。その体験を広めてより多くの人を救うためにね。。。」
これは、S如苑の効果を宣伝して、より多くの人を入信させて救ってあげるお役目という意味らしいです。
はい、ガチですね。
「その神様は、飛行機を墜落させないってことはできなかったの?」と、そもそもの疑問をぶつけると
「それは無理、起こることは因縁で決まってるから変えられないの」
A子さんは、今度は真剣な表情で答えました。
はい、ガチですね。

~後日、日空機墜落事故に関するS如苑のエピソードをネットで検索してみたら、噂レベルの話がちらほら出てきました。その噂によると、助かったのはパイロットではなく、その便に乗るはずだったS如苑の信者の集団の予定が急に変更になって事故を免れたということです。本当にあったかどうかもかなり疑わしいです。まあパイロットと言った方がちょっと話が派手な感じになるかもしれませんね。勧誘用のエピソードとして、少しづつ脚本が練られて細部が変わっていったのかもしれません。~

続いて、A子さん自身の体験も聞きかせてくれました。A子さんの周囲の方々、旦那さんやご両親、親戚の方々、仲のいいご友人も多くがこの宗教に入信していて、その教えに“守られている”そうです。というのも、A子さん自身や周囲の入信者の方々は、酷い交通事故に遭っても大怪我だけで済んだり、深刻な病を患っても手術が成功してなんとか一命を取りとめたりして、助かっているのだそうです。次から次へとそんな体験談を話してくれたので、聞いていた私は思わずゾッとしてしまいました。
なんでそんなに頻繁に事故に遭うの?
そんな確率で大病になる?
怖くなった私はまたそもそもの疑問をぶつけたくなりました。
「はじめから事故に遭わないようにはできないの? 病気自体にならない方がいいよね?」
「いやだからさ、因縁で決まっていることは簡単には変えられないんだよ!
この程度で済んでるってことはすごい奇跡的なことで、信仰のおかげなんだよ!」
A子さんはまた真剣な顔で答えました。
はい、ガチですね。

でもこの会話、なんだか既視感。。。
最近でもあったような。。。
「ワクチン打ったのにコロナにかかっちゃったの?」
「ワクチン打ったから重症化は防いでくれてるんだよ!」
「なんかすごい重症っぽいけど・・・」
「ワクチン打ったからこの程度で済んでるんだよ!」

似たような構造です。人の信念って結構単純で、数えられるほどの構造パターンしかないのかもしれません。

ワクチンに関しては、これとは逆に、打ってしまうとコロナにかかりやすくなるとか重症化しやすくなるとか、更には、打ってしまった人の近くで長時間一緒に過ごすだけで体がおかしくなるとか、そういう主張も見かけます。本当に人によって信仰は様々ですね。
それぞれの人が自分の信じたい情報に飛びつくので、自分こそが正確なデータを知っていると思いがちです。結局はあと何年もたたないと本当のところはわからないので、どっちにしろ決めつけないようにしたいです。

話を戻します。
A子さんの周囲の人たちがみんな入信しているのは、すべてA子さんが勧誘したからだそうです。つまり、最初にA子さんが信者になり、ご両親や旦那さんは後から引き込んだそうです。
すごい営業能力!現に私もA子さんに言われるがまま本部に連れていかれる最中だし。。。あまり押しつけがましくない優しい雰囲気がいいのかな。。。
S如苑では入信した場合、勧誘した人のことを“導き親”と呼ぶそうです。つまり、A子さんは実際のご両親の“導き親”になるそうです。今問題になっている宗教2世とは逆パターンですね。
A子さんや周囲の方々は、S如苑の“霊能者”と呼ばれる人に「事故に遭うけど怪我だけで助かる」とか「病気になるけど一命は取りとめる」とかあらかじめ予言されていたそうです。そして本当に言われた通りの出来事が起こったのだとか。。。
本当に?本当だったらすごいよね…
でも、不吉な予言は聞きたくないよなぁ…
良い予言は皆無のようだしな…

オカルト好きの私でも全然テンションはあがりません。

で、その“霊能者”って何者?
教祖のこと?
どんどん疑問がわいてきてしまいます。

A子さんは丁寧にシステムを説明してくれました。
S如苑には“霊能者”がたくさんいるそうです。元々霊能力を持っていなくても、入信してS如苑内の学校を卒業して修行を積めば“霊能者”になれるんだそうです。そして今日これから行く法要のような行事で1000円を払えばその“霊能者”に鑑定してもらえるとか。その鑑定をS如苑用語で“接心(せっしん)”というそうです。A子さんやそのご家族はこの“接心”で事故に遭う予言をされたんだそうです。本当かな…

「私もね、霊能者目指してるんだ」
A子さんはキラキラした表情で語ります。
目の前で夢を語られると反射的に応援したくなります。
「そう、じゃあその学校卒業して霊能者になれるといいね!」
「もう卒業はしたよ」
「え?じゃあ後は何をしたら霊能者になれるの?」
「私はまだまだなんだよね。。もっとたくさんの人をお助けしないとね。。」
「???お助け???」

~後日調べてみたら“お助け”とは、S如苑用語で勧誘することだそうです。A子さんは周囲の人を片っ端から勧誘して入信させたみたいですが、まだ足りないようです。~

しかし、勧誘人数が多いと霊能力が身につくって。。。霊能力ってそんなもん?
そんな“霊能者”が事故の予言を的中させたの?噓でしょ?
おそらく、記憶の中で順序が入れ替わっているんじゃないかと推測できます。
時系列順に並べると、
事故に遭ったり病気になる
   ↓
なぜ自分が?と理不尽な目に遭った理由を求めて入信する
   ↓
“霊能者”に「これは先祖の因縁で起こった出来事です」と教えてもらう
   ↓
「やっぱり!」と理由がわかって安心できた

以上のような流れで納得感が得られたので、その感触から「予言で災難を言い当てられた」「信仰のおかげでこの程度で済んだ」という記憶にすり替わったのではないかと思われます。過去の記憶なんて驚くほど簡単に、しかも無意識に都合よく修正されますから。。。
これなら、入信者が高確率で事故に遭ったり病気になったりする理由も説明がつきます。入信してから理不尽な目に遭ったんじゃなくて、理不尽な目に遭ったから入信したんでしょうね。これはどの宗教でも同じで、弱っている時が勧誘のチャンスです。
そして当時の私も、騒音被害と騒音主からの逆ギレ&嫌がらせで理不尽な目に遭っていて、そのストレスからか体調も劇的に悪化していたので、勧誘されやすい精神状態でした。

※これはあくまでも話を聞いただけの私の勝手な考察なので、本当に“霊能者”に予知能力があるのか、意図的にだましているのか、思い込みが激しいだけなのかは不明です。

まあそんな話をしながら、A子さんと私は立川へと向かったのでした。

(7)へ続く